世界最先端のDNAを切らないゲノム編集技術で、医療・農業・微生物などの事業開発を推進する神戸大発ベンチャー
株式会社バイオパレット
画像取得先: https://www.biopalette.co.jp/
会社概要・事業内容
会社概要
神戸大学の近藤昭彦教授と西田敬二教授が発明した世界最先端であり画期的な技術、「DNAを切らない新しいゲノム編集技術(切らないゲノム編集®)」の実用化を目的として、2017年2月に設立されたバイオベンチャー。
当社のコア技術は、「DNAを切断しない新しいゲノム編集(切らないゲノム編集®)」。
本技術に関する論文は Science誌、Nature Biotechnology誌など世界トップレベルの科学ジャーナルに掲載されており、世界中が注目するゲノム編集分野で高い評価を受けている画期的技術である。ゲノム編集技術の基礎研究・応用研究では米国が先行する現状において、ゲノム編集分野の進展に変化をもたらす日本発の基幹技術として期待される。
医療、農業、微生物など、複数の分野の事業開発を推進する基盤として強固な知財ポートフォリオを構築するとともに、自社開発と外部企業とのアライアンス双方の可能性を視野に入れ、グローバルな事業展開を進めている。
事業内容
- ゲノム編集技術に係る研究開発および知的財産権の所得、実施、使用許諾、維持管理など
テクノロジー
DNAを切らないゲノム編集技術
CRISPR/Cas9に代表される従来のゲノム編集がヌクレアーゼによるDNA二本鎖の切断を前提としているのに対して、切らないゲノム編集®は塩基の変換を誘導する酵素(塩基変換酵素)により点変異を導入する技術。
CRISPRシステムのCas9タンパク質が有するヌクレアーゼ活性を不活性化し(dCas9またはnCas9)、塩基変換酵素と複合体を形成させることで、配列特異的にDNA上の特定領域に塩基変換酵素を作用させて点変異を導入するもので、この技術は一般的には塩基編集と呼ばれている。当社では、塩基変換酵素の種類により、「Target-AID®」および「Target-G®」という2種類の塩基編集技術を有する。
- 「Target-AID®」
DNA上の標的部位にピンポイントかつ特定パターンの塩基置換を起こす技術。
Target-AID®では、塩基変換酵素として脱アミノ化活性を有するシチジンデアミナーゼ(Activation-induced cytidine deaminase: AID)を使用。シトシンは脱アミノ化されるとウラシルへ変換され、RNA塩基であるウラシルがDNA上ではチミンとして認識されることで、結果的にシトシンがチミンに変換される。CRISPRシステムによって形成される標的領域の一本鎖DNAが露出した部分にのみAIDが作用するため、非常に特異的な範囲(5 bp以内)のシトシン(C)をチミン(T)に変換することが可能。 - 「Target-G®」
DNA上の一定範囲にランダムな塩基置換を起こす技術。
Target-G®では、塩基変換酵素として脱塩基(塩基除去)反応を誘導するグリコシラーゼを使用。脱塩基が生じた部分には任意の塩基が補充されるため、ランダムな塩基置換が起こる。グリコシラーゼの特性上、Target-G®は標的化した領域を中心として約1,000 bpの範囲に作用。一定の領域にランダム変異を入れてバリエーション化することで、変異体ライブラリ作成や進化工学育種に利用できる。
<切らないゲノム編集®の主なメリット>
- 正確・精密に一塩基単位での編集ができる(意図しない変異導入がほとんどない)
【応用】
正確な遺伝子編集が求められるセラピューティクスや創薬ツールの分野における応用 - 微生物を含む多様な生物種を対象とできる
【応用】
切るゲノム編集の適用が困難であった生物種への対象拡大(特に細菌等の微生物の育種における応用) - 多箇所の同時編集ができる
【応用】
・多様な変異体の作製が求められる機能性微生物や有用作物の育種の効率化
・全ゲノムを対象とする網羅的遺伝子解析など基盤的研究ツールとしての応用
事業分野
ゲノム編集の対象となる細胞の種類により分類した3つの分野で事業を展開している。
マイクローブ(対象:微生物/微生物分野)
- マイクロバイオーム
塩基編集を活用してマイクロバイオームを構成する細菌を遺伝子改変し、細菌製剤として投与するマイクロバイオーム・セラピューティクスを目指している。「塩基編集による細菌の育種・改変」を独自のプラットフォームとして、機能性細菌のデザイン・創出を行う。 - インダストリアル・バイオ
ホワイトバイオとも呼ばれるインダストリアル・バイオ分野は、ゲノム編集を含む合成生物学の発展により大きな成長が見込まれる分野。微生物を利用した物質生産は、燃料、化学品、医薬品、素材、食品など、あらゆる産業に大きな影響を及ぼすと考えられている。
当社では、「塩基編集による微生物の育種・改変」をコア技術として、インダストリアル・バイオ分野での事業展開の可能性を探る。
セラピューティクス(対象:ヒト細胞/医療分野)
精密・正確な遺伝子編集を実現する塩基編集(Target-AID®)は、Human Therapeutics分野における応用が期待されている。塩基編集を利用すれば、遺伝子破壊のみならず、DNA断片の挿入を伴わずに遺伝子修復が原理的に可能である。遺伝性疾患には、一塩基変異が原因となっている疾患が多数存在する。塩基編集は、それらの遺伝性疾患の治療において画期的な治療法を提供できる可能性を秘めている。
アグリカルチャー(対象:植物細胞/農業分野)
塩基編集を作物育種に利用することで、従来の遺伝子組換え技術で行われてきたように穀物に有用形質を付与して効率的農業生産に寄与することの他、野菜や果物などにおいて特定の成分量を調整することで、栄養価の向上、アレルゲンの低減、保存性の改善など、消費者に直接的なメリットを提供する作物を創出することが期待できる。特に、当社の技術であるTarget-G®による進化工学的な育種とTarget-AID®による精密な点変異導入の組み合わせは、効率的な植物育種を実現するための強力なツールとなる。
経営者プロフィール
代表取締役 村瀬祥子
1994年に東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業後、1999年に東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(博士号取得)。その後、ライフサイエンス、バイオテクノロジーを専門とするベンチャー・キャピタリストとして、複数のベンチャー企業の創業に関わる。2017年2月より現職。
取締役 近藤昭彦
(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 教授 研究科長)
1983年に京都大学工学部化学工学科卒業後、1988年に京都大学大学院工学研究科化学工学専攻 博士課程単位取得満期退学(博士号取得)。その後、2003年神戸大学工学部教授等を経て、2016年4月より神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科長(現任)。2017年2月より現職。
取締役 西田敬二
(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 教授)
2001年に東京大学理学部生物科学科卒業後、2006年に東京大学大学院理学系研究科博士後期課程生物科学専攻修了(博士号取得)。その後、立教大学理学部博士研究員、ハーバード大学医学部博士研究員、神戸大学自然科学系先端融合研究環特命准教授を経て、2016年11月より神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科教授(現任)。
細胞進化、合成生物学などの分野での研究ののち、従来のヌクレアーゼ型ゲノム編集技術に代わる技術としてDNAの脱アミノ化等の塩基変換反応を利用したTarget-AIDの開発を行った。2017年2月より現職。
取締役 山本一彦
(神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 教授)
1988年に一橋大学商学部経営学科卒業後、住友電気工業株式会社、株式会社野村総合研究所企業財務調査室等を経て、1998年に独立系ベンチャーキャピタルを創業し、代表取締役に就任した。創業期専門のベンチャーキャピタリストとしてベンチャー企業の投資育成に取り組む一方、企業金融の専門家としてM&A・財務戦略などのコンサルティングを提供。2016年3月、ベンチャーキャピタルの代表取締役を退任し、2016年4月、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科教授(現任)及び同大学大学院経営学研究科教授(兼任)に就任(現任)。2019年2月より現職。
(同社Webサイトを基に当社編集)